Rammeslått

2021年もゴールデンウィークが緊急事態宣言中という状況の中、私はいつものように楽器を弾いて出かけないゴールデンウィークを過ごしました(笑)。楽器を弾いている人は案外この感じがわかる方もいるのかもしれませんが、弾き始めたらあっという間に1日が過ぎてしまいます。

さて、そんなゴールデンウィーク中に取り組んだ曲が、Goorrlausゴッラウスというチューニングの曲。メロディー弦3弦の調弦はレギュラーチューニングと同じですが、バス弦のみfまで下げて調弦します。曲数は多くなく、主にSetesdal地方のレパートリーに残っています。その響きは暗さと明るさの両面を持ち合わせた、ミステリアスなものです。因みにGorrlausとは「非常に(バス弦の調弦が)緩い」という意味だそうです。

Telemarkテレマルク地方にも同じようにミステリアスな響きを持つ調弦法があります。恐らくSetesdalのGorrlausとも何らかの繋がりがあるのでしょう。高音域を弾いている時は明るく、低音域を弾いていると非常に暗く、メロディーがその間を行き来するところは夢と現実を彷徨っているかのような感覚に陥ります。恐らくこれらの調弦法はとても古いものだとも聞いたことがあります。昔の人たちがどんな風に音楽を楽しんでいたのかは想像の域を出ませんが、ノルウェーのフォークにはRammeslått ランメスロットという言葉がありトランス状態に陥(る)らせる曲という意味を持っています。(あるいは、奏者が尋常ならないほど音楽に没頭している状態を表します)ハーディングフェーレの古い曲はダンスチューンで、夜通し弾かれていたわけですから、そういう場では、現実と非現実を彷徨うという感覚も、古い時代から持ち合わせていたということです。そして、このGorrlausというチューニングはRammeslåttという言葉と深く結びついている場合が多いのです。

”Gorrlaus Gangar”

New old bow 新たに弓を買いました

数年前から、古いタイプの弓に興味があって、何度も試してはやめ、試してはやめていたのですが、この度やっと新しく、古いタイプの弓をハーディングフェーレ用に購入しました。

バロック音楽をご存知の方は、弓の形状が古い時代は違っていたことはよくご存知のことと思います。ハーディングフェーレの古い時代の弓のことについては、実はあまり系統だった研究がありません。僅かに断片的に知られていることとして、150年ほど前からモダンボウが使われるようになったようだということです。19世紀後半ごろに楽器の近代化が起こり、その頃からステージで演奏するプレーヤーが出始めました。モダンボウも使われ始めたのはそのころだろう、というのです。事実、その頃活躍していたプレーヤーの写真を見ると、若い頃は短い弓を持って写っているのに、老年期になるとモダンボウを持って写っていたりします。ステージで演奏するようになって演奏スタイルが変わり、その影響で弓も変わったのかというと、必ずしも因果関係があったかどうかはわからないそうです。

私が大学院時代に調べてみたKnut Dahleというプレーヤーも、壮年期の写真ではバロックボウ、60歳頃の写真ではモダンボウを持って写っているのですが、演奏スタイルが弓のせいで変わったかどうかはよく分かりません。彼は、この時代のプレーヤーにしては大変珍しく、録音を残していますが、恐らくモダンボウで弾いたであろうその録音でも弓使いはかなり短く、彼の場合は、演奏上の理由があって弓を持ち替えたというよりは、時代の流れに合わせて変えてみた、といったところだったのかもしれません。古いスタイルを貫いたプレーヤーだったと評されています。

今回の弓は、古いハーディングフェーレの弓を実際にご覧になったことのある弓メーカーさんが作って下さったオリジナルボウです。先端の形状はハーディングフェーレの古い弓から取られていますが、長さや材料、毛を張るシステムは使い易いようにアレンジされています。まだまだ、どういった弾き方が良いのか、どんなレパートリーが良いのかなど試行錯誤を重ねる段階ですが、一つ動画を撮りましたのでアップします。

Filleværenフィッレヴァーレンという曲は、セテスダール地方でよく知られた別の曲がありますが、テレマルクでも西の方でよく知られています。元々レッスンで教わってものにKnut Dahle、Johannes Dahleの録音で得た要素を加味して比較的自由に弾いています。このような古くて短い曲は、古い弓で弾くのに適しているのではないかなと思っています。

FIlleværen

God jul 2020 !

色々と暗いニュースの多い1年が、もうすぐ終わろうとしています。
ノルウェーにいた頃には、教会でのコンサートがよく開かれ、足を運びました。今年は、自分たちでクリスマスの曲を教会で収録させて頂く機会を得ました。大阪、東京は大変な日々ですが、クリスマスは平穏に迎えられますように!

オンラインコンサート配信開始

今年の10月は昨年よりも随分と涼しいようで、最近すっかり秋らしくなってきましたね。

さて、去る10月某日、兵庫県伊丹市にあるアトリエ・風のポルッカさんで、ニッケルハルパの本田倫子さんと3月に予定していたコンサートのオンライン版を作るべく、収録を行いました。本田さんの撮影と編集を経て、10月27日より公開しています。

3月のコンサートは、新型コロナウィルス感染症の流行がいよいよ本格化するなかで中止となりました、以来、コンサート活動が制限されての半年余りを過ごしました。今回は、全収録曲12曲のうち、3曲を無料公開し、今後の活動に向けて皆さんからの協力金を寄付で募らせて頂いております。また、全編12曲は有料配信とさせて頂き、11月22日24時まで公開致します。是非、多くの方にご視聴頂きたく思っております。どうぞよろしくお願い致します。

有料配信への案内ページ https://nyckelharpa.stores.jp

YouTube公開動画

God midsommer!

今日は夏至の日。この機会に、昨年の守山市民会館ロビーコンサート用に作成した映像をアップロードしました。
ノルウェーで撮った写真と自分の録音で綴った10分のビデオ映像です。自家製です。

それではGOD MIDSOMMER!!

本日12:00からは「北欧の『おうちで』音楽ピクニック」がYou Tubeで放送されます。62組のアーティストが1曲ずつお家で撮った映像が流れます。私も参加しています。どうぞご覧ください。

https://www.music-picnic.club/

北欧の音楽ピクニック

早いもので6月も半ばになりました。6月15日といえば、ノルウェーの作曲家、エドヴァルド・グリーグの誕生日。あの懐かしいGrieg minutt for minuttも2年前のことになりました。そして、今年はコロナウィルス感染症の世界的流行で、世界各国が今までにない状況となっています。

6月21日、いつもお世話になっているハーモニーフィールズさんの企画で、「北欧の音楽ピクニック」が開催されます。ちょうど、北欧諸国にとっては夏らしい夏至の日に因んだ企画ですが、今年は「お家で」開催、そう、オンラインでの開催となります。私も短いビデオ映像を自宅で撮影し、このイベントに参加します。当日は12:00から北欧諸国と日本から集められた夏をテーマにした音楽映像がオンラインで流されます。是非、ご覧ください。

ハーモニーフィールズさんも今年で20周年とのこと。おめでとうございます!あっという間の20年。聞いてびっくり!年月のたつのを思い知らされます。

ホームページはこちらです↓
https://www.music-picnic.club/

近況報告(2020.04.11)

今年は年頭からバタバタと感染症のニュースが世界を駆け巡り、4月に入って私の住む大阪では緊急事態宣言が発令されるほどになってしまいました。3月以降のイベントやレッスンは基本的に中止とさせて頂いています。このブログを読んでくださっている方々の健康をお祈りしております。

3月7日に予定していたコンサートは、当初は5月頃に延期と考えておりましたが、現在の所、秋以降に再日程との予定です。このところ、ノルウェーのフォークミュージシャン達は、自宅でのオンラインコンサートをして楽しんでいます。私たちも何か新しい試みをして楽しめたら良いなぁと画策しています。どうぞお楽しみに!

レッスンの方は、オンラインでレッスンができたら良いなあと考えています。これまで私自身は試したことがない試みですので、こちらも楽しみに準備したいと思っています。

毎年、夏に行く予定にしているノルウェー最大の民俗音楽祭ランズカップレイクも今年は中止になってしまいました。この大会は毎年持ち回りでノルウェー各地の民俗音楽団体が主宰することになっているのですが、今回ばかりは来年も同じ開催場所(世界遺産にも登録されているRjukan、私が修士論文で扱ったKnut Dahleの住んでいた所のすぐ近くです)となるそうです。是非来年は訪れるつもりです。Rjukanについてはまたいつか記事にしたいと思っています。

それ以外では、2年半前に注文していた5弦のハーディングフェーレが、郵便事情が停滞する直前にやっと届き、今はもっぱらこの楽器を楽しんでいます。通常のハーディングフェーレの低音側にもう1本弦が付け加えられています。もう10年程も前から欲しいと思っていたのですが、なかなか注文できず、2017年にやっと注文した時には、職人さんの所で予約が殺到しており、2年待ちと言われていました。2年も待ちましたがやっぱり作ってもらってよかったと大満足しています。古い楽器の復元ではなく、エクスペリメントの方の楽器なので、弦や調弦方法も色々と試せるのがこれからもとても楽しみです。因みに、私の愛用している4弦のハーディングフェーレを作ってくれたSalve Håkedalの作です。Salveはボディーの大きめな5弦の楽器「Hardanger d’amore」も制作していますが、今回私が注文したのはハーディングフェーレサイズのものです。

一方で以前より愛用中の古い楽器の方は、さらに修理が必要と感じていたため、年始より、鎌倉に住むハーディングフェーレも制作する楽器職人の原圭介さんの工房に預けて修理してもらっています。1901年製の楽器ですが、オリジナルの部分を多く残しているもので、糸巻きが経年劣化で緩んできてしまい、修理を必要としていました。その他、細かい作業をいくつかお願いしている所です。原さんは2015年より、私も大尊敬し、大変影響を受けたプレーヤーで製作家のOttar Kåsaの工房で修行をされた信頼のできる職人さんです。こちらの楽器もまた現役になって帰ってくるのが楽しみです。

少しずつ進めているCD制作の方も、もうすぐ終盤となりそうです。世界中のバタバタが終わる頃にはこちらも完成していることでしょう!

皆様もくれぐれもお体に気をつけて、今できる楽しいことを見つけて、辛い時期を乗り越えて下さいね。

3月7日はSpring Concert!

残念ながら3月7日のコンサートは日程延期となりました。後日、新日程をお知らせします。

遅くなりましたが、2月11日のコンサートに来てくださった方々、ありがとうございました。私はハーディングフェーレの伝統曲を弾くのが好きですが、今回は新しい曲を作ってみることも楽しみました。思ったほどの曲数を準備することができず、そこは残念でしたが新しく生まれたメロディーも今後、大切にしていきたいと思います。

さて、3月7日はニッケルハルパの本田倫子さんとのデュオライブです。共鳴音のとても多いニッケルハルパと、これまた共鳴弦のついたハーディングフェーレ。ノルウェーとスウェーデンの伝統曲をたっぷりお楽しみください。

会場の風のポルッカさんは、プライヴェートな雰囲気が魅力の素敵なスペースです。リラックスした空間で、音楽をお楽しみください。ご予約はこのホームページの問い合わせ欄からメッセージで受け付けています。
以下は会場への行き方です。(倫子さんが作ってくれました)

2月11日ライブのお知らせ

2月はじめに久しぶりにソロライブをすることになりました。
いつもの天神橋筋のStudio TIme Blueで、1時間程度の音楽と、終演後にはお茶とお菓子(今のところ予定ではノルウェーワッフル)を準備する予定です。

今回はVinterblå (Winter Blue)と題し、ブルーにまつわる曲をお届けします。ハーディングフェーレの調弦法の中には色で表現したものがあり、その中にはライトブルーというものもあります。また、青という色は、氷河だったり雪山だったりフィヨルドだったり….とてもノルウェーの自然を連想させる色です。

そんな、ブルーを表現した曲を、伝統曲、オリジナル曲交えてお届けします。

ご予約は、contact@satokok.comもしくはStudio Time Blueまで

3月7日(土)には、ニッケルハルパのmichikoさんとデュオコンサートを予定しています。

阪急神戸線塚口駅からバスで10分ほどのところにあるとてもプライベートな素敵なアトリエポルッカさんでのライブです。こちらは休憩ありの2部構成で、終演後にお茶をご用意しています。

michikoさんとは9月にライブをさせてもらいました。以前のfissの時とは違い、それぞれの楽器のソロを中心にしたコンサートでしたが、お互いの楽器の個性がより現れて面白かったので、今回も同じシリーズでの予定です。こちらもご予約お待ちしています。

ランゲレイク Langeleik

2019年7月のノルウェー旅行中の記事です。

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ノルウェーの民俗楽器の中に、ランゲレイクという楽器があります。中世期から弾かれていたとされる長い歴史をもつ楽器ですが、ハーディングフェーレほど歴史の詳細が明らかになってはいません。150年ほど前には、ノルウェーの村々、特にヴァルドレス地方では一般的に弾かれていた楽器で、現在でも多くの奏者がこの地方の出身です。音の芯がはっきりして力強いフェーレやハーディングフェーレに対し、繊細な音色がまさに癒しの音楽。この夏、ランゲレイクの歴史的な楽器を用い、ダンス演劇とコラボレーションした舞台作品がヴァルドレスで上演されました。それに関連して、ヴァルドレス地方の歴史上のランゲレイク奏者ゆかりの地を巡るセミナーが開かれたので参加してきました。

私はそもそもランゲレイクという楽器について、あまり詳しい知識は持っていないので、大雑把な説明にはなりますのでご了解ください。楽器はメロディー弦1本に対して7本前後のドローン弦が張られています。メロディー弦の部分にのみブリッジが敷かれ、スケールを弾くことができます。このブリッジは、日本の筝の琴柱のように可動式のものではなく、楽器に据え付けられていて動かすことができません。ランゲレイクは1860年前後に楽器の「近代化」がなされたと言われていますが、弦の数や張り方に加えて、このメロディー弦のスケール(および音律)が変わったことがわかっています。このことは、ノルウェーの民俗音楽における音律論でも取り上げられています。

19世紀の初期の民謡収集家として知られるリンデマンは度々ヴァルドレス地方を訪れ、ランゲレイクのメロディを採譜しました。のちに、エドヴァルド・グリーグはその採譜をもとにピアノ小品を作曲していますが、当時はそのような音律の記譜も不可能であり、当然ピアノでその音律を再現することも不可能であったため、当時のランゲレイクの演奏からは違うものになっているということも度々指摘されます。

このセミナーでは、実際に「モダン音律」に作られているランゲレイクと、「古い音律」に作られているランゲレイクを弾き比べてもらいました。ハーディングフェーレと同じく、古い楽器はあまり多くは残っていませんので、現在残されているたった数台の楽器から古の音色を感じました。ハーディングフェーレで古い音律の話を語る場合は、楽器の性質上、ある程度信憑性が欠けてしまいます。ハーディングフェーレは自分で調弦ができるからです。昔のプレーヤーがどういう音律で弾いていたのかは録音が残っていない限り、わからないことです。しかし、ランゲレイクは楽器作りの段階から音律が設定されていたわけですから、より確かな歴史的な証拠ということができます。現代に伝わっているハーディングフェーレでも弾かれる曲がこの古いランゲレイクで演奏されるのを聴いて、私の中での音律に付いての考えが少し変わっていきました。

リンデマン Ludvig M. Lindeman

ランゲレイクの古い時代のプレーヤーについてはあまり詳しいことがわかっていません。以前より断片的に聞いた歴史的なプレーヤーの話からは、女性が多かったことが印象に残っていました。当日の説明でも、女性が多く紹介されましたが、恐らくこのことが、ランゲレイクの歴史的なプレーヤーの史実にあまりアクセスできない理由ともなっているようです。ワークショップでの説明によると、ランゲレイクという楽器はハーディングフェーレやフェーレよりも身分の低い人達が弾いていたために、プレーヤーの生い立ちなどはっきりした情報を集めるのが難しいそうです。今でこそ女性の地位が高いことで知られる北欧諸国ですが、何百年も昔は村での女性の社会的地位は男性よりも低かったことでしょう。実際、ハーディングフェーレやフェーレは古くは男性が主に弾いていたということを考えると、それぞれの楽器の奏者の社会的地位の違いは実際のところあったのかもしれません。

クヌートとオーレ・オースタ・ブローテンは
現代のランゲレイク奏者の中でも最高のプレーヤー
アイヴィン・グローヴェンのハーディングフェーレソロの為の名作
「Sumarmorgon 夏の夜」をランゲレイクで。

近代になると、ランゲレイクにも有名な男性のプレーヤーが登場し、華々しい演奏で聴衆を魅了しました。20世紀初頭には、古いタイプのランゲレイクとは大きく異なり、音を大きくするために複弦を使った楽器を演奏するプレーヤーが出ましたが、一般的には調弦と演奏の難しさから普及はしなかったそうです。

この夏、ポ・ピンテ På Pynteというタイトルのランゲレイクをモチーフとした舞台作品がノルウェーで製作されました。ベーリット・ピンテBerit på Pynten (ピンテのベーリット 1812-99)は19世紀に活躍した女性ランゲレイク奏者です。舞台ではランゲレイク、民俗音楽、ダンスについての思いを語り踊る2人の男女の周辺で4台のランゲレイクが独奏と合奏で伝統曲を綴ります。時々映像に現れるのは 「Dansedokke 踊る人形」と呼ばれるもので、実はそれぞれのプレーヤーの目の前に置いてあるものをカメラで拡大したもの。150年ほど前に活躍したベーリット・ピンテですが、音楽を聞かせる際に、実際のダンスを見せる代わりにこういった人形を糸で繋がれたペダルを操作することで演奏中に操って見せていたことが知られています。舞台の中心で語り、踊る男女はこの人形たちを表しているのかもしれません。

ベーリット・ピンテ
オドルン・ヘッゲによるランゲレイクとdansedokke踊る人形