悲しい出来事

つい先日2月4日の日曜日、私がヴォスにいた頃に大変お世話になったLeif Ryggという奏者がお亡くなりになりました。まだ70代半ばとまだまだお元気であってもおかしくない年齢でした。数年前より闘病中との話があり、周囲も覚悟はしていたものの、やはりその存在があまりに大きかっただけにとてもショックです。最後にお会いしたのは去年の10月、今年も機会があればお訪ねできたらいいなあと思っていたところでした。

私が2010年にヴォスのオレブルアカデミーを始めた頃、顔を出した地元のスペレマンスラーグではいつも大きなお父さんのような存在で、曲のわからないところはLeifに聞こう、のような、具体的な指導だけに止まらず、常にその場の空気を明るく和ませるユーモアに溢れ、周囲にはいつも笑いが絶えませんでした。いつも美しさに溢れ、独特の繊細で明るい音色と活発でリズミカルな音楽は、私にとってはヴォスそのものでした。地元での存在の大きさに止まらず、多くのプレーヤーにユーモアと音楽を届けた事がよく知られています。ノルウェーの民俗音楽にとって、かけがえのない存在でした。

http://www.folkemusikk.no/leif-rygg-til-minne/

https://www.youtube.com/watch?v=l0FyIypyvtg

コンサート追加情報

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1月のコンサート、当初予定していた定員20名は満席となったのですが、同じ会場に広い部屋があるということで、そちらでの開催を考えています。まだお席に余裕がありますので、是非お越しいただければ幸いです。

尚、特にお子様向けという設定ではありませんが、小学生までは無料、中高生は半額とさせていただきます。ご予約の際にお伝えください。

ミュージアムでみるハーディングフェーレシリーズ 2 Old Hardanger Fiddles at the Museums vol.2

シリーズ2では、テレマルクの楽器に焦点を当てたいと思います。テレマルクの新旧の楽器について詳しいのはボーミュージアムBø Museumの展示です。ここに集められているのは、テレマルクの、そしてハーディングフェーレの歴史上、特に重要とも考えられるへランドHelland、スタインシェンダーレンSteintjønndalenの作家たちの作品を中心に、それ以前に活躍した、カール・ルーエ Karl Rui (1742-1829) の作品を展示しています。へランド家、スタインシェンダーレン家どちらも実は元は大きな一つの家族。世代を経てボーからスタインシェンダーレンへと分家した親戚同士です。

なぜ、Helland、Steintjønndalenが重要なのか?ハーディングフェーレはその名前にも代表されるように、ハルダンゲル地方を中心に西ノルウェーで最初に作られ始めました。18世紀を通じて各地へと広がりを見せましたが、形状は主に小型であることは共通していたもののまちまちで、弦の数(特に共鳴弦の数)は定まっておらず。装飾も多岐に渡っていました。(vol.1の写真で楽器の頭部をよく見ると、現在一般的なライオンや竜とは随分と違うのがわかるかもしれません)Bjørn Aksdalは歴史的なハーディングフェーレの楽器の発展は3段階に分かれると定義しています。1,Jaastadfeleを含む17-18世紀に作られた農民の楽器 2, ハルダンゲルのBotnen一族の楽器 3, テレマルクの近代化された楽器

楽器の発展において一大革命を起こしたとされるのが、エーリク・ヨンソン・へランド Erik Johnsen Helland (1816-1868)なのです。

へランド家のヨン・エリクソン・へランドの息子として生まれたエーリク・ヨンソンは、ハーディングフェーレ職人の父の元、かなり若い頃より楽器づくりを始めすぐに頭角を表し、職業的楽器作家となります。わずか52年の人生の晩年に(1862年)コペンハーゲンへと留学しバイオリン制作を学びその頃の経験が、晩年のいわゆる「モダンな」ハーディングフェーレのモデルと言われるようになったと一般的に語られていました。ところが、2009年に発表された歴史的ハーディングフェーレのサイズ測定結果からは、少し別の事実が明らかになっています。ここについてはまた後日改めるとしますが、ともあれ、エーリク・ヨンソンの重要な業績は楽器の近代化であると考えられています。

エーリク・ヨンソンとちょうど同時期に楽器の近代化を推し進めていったと言われるのが、エーリク・ヨンソンの弟でHelland家から分家したEllev Jonsen Steintjønndalen(1821-1876)。この兄弟は1850頃より新しいモデルを作って行きました。

トータルで4世代に渡ってハーディングフェーレの職人を生み出した一族ですが、このエーリク・ヨンソンの業績はハーディングフェーレの歴史に転換をもたらしました。そして、その後もこの一族が作り出す楽器が各地で作られるハーディングフェーレのモデルをリードしていきました。

写真は左より、Erik Johnsen Helland “Kjempa”、Jon Eriksen Helland、Karl Rui。(Bø Museum展示 2016)

 

 

ベルゲン博物館には、へランド一族の4世代目の作家の一人、Gunnar Hellandの作品 (1930)も収められています。

 

 

またトロンハイムの楽器博物館にも、へランド一族初代のJon Eriksen Helland、4世代めの作家の一人にして、最も偉大と言われているOlav Gunnarson Hellandの作品(1902)が収蔵されています。写真は左からJon Eriksen Helland, 横から並んでみたOlav G Helland & Jon Eriksen Helland, Olav G Helland (正面)Olav G Helland(背面)

 

 

ハーディングフェーレの発展の歴史上の3つの段階と上に書きましたが、現在一般的に弾かれている楽器の90%以上はモダンの楽器の部類に入るといって良いでしょう。とはいえ古い楽器は、古い時代への憧れや探究心となって多くのプレーヤーへインスピレーションを与え続けています。

まだまだ続きます。

Here I pick up some of the old and more modern hardanger fiddles from Telemark. These pictures are mostly “Hellandfele”, except one which was made by Karl Rui, who was probably the first hardanger fiddle maker in Telemark (1742-1829). I visited Bø Museum in Telemark, Bergen Museum and Ringve Museum in Trondheim.

ミュージアムでみるハーディングフェーレ シリーズ1 Old Hardanger Fiddles at the Museums vol. 1

 

以前の記事にも書いたのですが、自分自身が楽器を購入するにあたって、また、修士論文をかくに当たって、歴史的な楽器についても博物館を訪ねたりしました。その一部をここに公開します。

まず、上の写真はノルウェーで現存する最も古いハーディングフェーレと言われている通称ヨスタフェーレJaastadfele。1651年のラベルがつけられています。このヨスタフェーレを始めとする17世紀にハルダンゲル地方で作られた楽器は、現在一般的な楽器に比べると随分と小ぶりです。以前の記事で、私のHellandfeleは少し小ぶりだと書きましたが、それよりもさらに小さく、参考までに数値で書くと楽器本体の長さが322mmで(B.Aksdal Hardingfela参照)私の持っているものは347mm程度かと思います。指板や本体に施されている装飾も、モダンの楽器のつる草模様と十字模様主体のものに対して、幾何学模様が主体になっているのがわかります。共鳴弦の数も初期の頃は本数が楽器によってまちまちだったようですが、ヨスタフェーレは2本つけられています。因みに、「モダンの」と書きましたが、ハーディングフェーレは1860年ごろより楽器のモダン化(具体的には大型化、バイオリン化、装飾のスタンダート化)が図られたとされます。

ヨスタフェーレはベルゲン博物館の所蔵で、このベルゲン博物館にはヨスタフェーレ以外にも17世紀に西ノルウェーで作られた古いタイプの楽器に加え、よりモダンな楽器 (vol2に掲載)も展示されています。以下がその一例です。

I would like to share the information about the old hardingfeler at the museums. I visited several museums to get to know about the old instruments when I wrote the master’s thesis. And here are some of the pictures I took.

The first 5 pictures are of the oldest hardingfele which is also known as “Jaastadfele”. This one is quite small and has 2 sympathetic under-strings. Decorations are also simple and geometrical. This hardingfele is collected at the Bergen Museum, and below, I put the 3 more pictures of the hardingfele which was made in the western Norway during the 18th century. (Also from the collection of the Bergen Museum)

コンサートのご案内 Concert on 7.jan.2018

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久々に大阪でコンサートです。来年1月7日天六のTime Blueというスタジオ兼ギャラリーのイベントスペースです。全体的にソロがメインで、休憩含めて全体で2時間くらいの予定をしています。途中で、ゲストとしてニッケルハルパの本田倫子さんも登場します。fissとして活動していたのが10年前です。本気で信じられません。久々にスウェーデンの曲も少しご一緒する予定です。まだプログラムは未定ですがソロの部の方はだいたい決まって来ています。2010年にノルウェーに来て、最初の頃に教わった思い出深いVossの曲、修士のテーマになったKnut Dahle関連の曲、そして2010年いやもっと前から思い入れのあるTelemarkの曲が中心となります。

コンサートにお越し下さる方は、このブログのメール、もしくはnyckelharpa@folkishproject.comまでご予約をお願いいたします。前売りが2800円、当日は3000円です。

Jeg skal spille på en konsert i Osaka i januar 2018. En 2-timers konsert inkl. pause. Michiko Honda og jeg pleide å spille sammen som “fiss” og det var faktisk for 10 år siden! Dette er helt utrolig. Vi skal spille sammen på noen låter. Elles på de fleste slåttene skal jeg spille solo. Programmet er ikke fastsatt ennå, men jeg tenker å ta noen slåtter fra Voss, noen Knut Dahle slåtter og mine favoritt slåtter fra Telemark. Jeg gleder meg til konserten!

I will have a hardingfele concert in Osaka in January 2018. This will be mainly a solo concert. Michiko and I used to play together as “fiss”, and it’s already for 10 years ago. At this concert, we will play together on a few tunes. I’m planning the program now. I will probably have some tunes from Voss, some Knut Dahle tunes and my favorite tunes from Telemark. I’m looking forward to the concert!

Booking; nyckelharpa@folkishproject.com

 

ハーディングフェーレの普段のメンテナンス

演奏弦私のやっている楽器の普段のメンテナンスについて。ハーディングフェーレを始めた頃は、こういうことにとても無頓着でした。周りのノルウェー人の奏者も、どれくらいシステマチックにやっているのかはあまりよく知りませんが、私は一般的に良いとされている方法を組み合わせてやっています。

ハーディングフェーレを始めたころよく疑問に思っていたのは、共鳴弦って張り替えるのか?ということでした。共鳴弦は実際には弓で弾かないのでメロディ弦ほど頻繁に張り替える必要はありません。私の場合は1年に一度です。それ以外の時は、クロスで乾拭きするか、エタノールなどを含ませたクロスで軽く汚れた部分を拭く程度です。エタノールは、あやまって表板につくと、ニスがとれることがあるので、使う時はなるべく板の上に何かを被せて保護します。共鳴弦の種類は前の記事に書きました。それぞれの楽器やメロディ弦のチューニングの音高に合わせて判断します。メロディ弦に使う弦が太い時は共鳴弦も太くするのが一般的です。

ハーディングフェーレにバイオリンの弦を張るのはテンションが高すぎて楽器に負担をかけると言われています。楽器そのものがバイオリンよりも少しネックが短く作られているからです。また、ハーディングフェーレはバイオリンよりもチューニングを高くすることが今まで一般的でした、近年でこそ、バイオリンのA弦をA音にチューニングすることがありますが、古くから一般的なのはそれよりも長1度高いH(B音)です。この基音をどう取るかというのは、ソロ演奏が基本のハーディングフェーレでは、奏者の好みによって判断されるものです。チューニングを高くすると、曲自体が非常にハイテンションな印象になることが多いです。逆に低くするとリラックスした印象になります。曲調や好みによって、B音よりも高く設定する人も時にはいます。もちろん、複数人で同じ曲を弾く時はチューニングを合わせますが、その場合はB音が取られることが最も一般的です。

数少ない普段のメンテナンスの中で、もうひとつ私がやっているのは、指板の調整です。これは1-2年に一度、職人さんに見てもらいますが、普段から指のよく当たる場所がすり減り過ぎないように気をつけています。特に、巻き弦を使うことのあるD線(第3弦)の下はすり減りが起こりやすく、すり減ってしまうとうまく音程が取れなくなります。巻き弦を使わない方法がないわけではなく、PirastroやFanitullenといった弦のメーカーが、芯はガット弦ながら、アルミ、または銀線で全てを覆ったものを販売しています。私はこちらのタイプを使っていますが、巻き弦に比べると上品な音色になります。巻き弦の方がオープンな音色であること、より伝統的であるということで、巻き弦を好む人も多いです。さて、メンテナンスですが、私が職人さんから推奨されている方法を紹介します。すり減ってしまった部分にアロンアルファなどの接着剤を塗る。→完全に硬く乾くまで待つ。(ここで注意!瞬間接着剤であっても、完全に乾くまでは10時間ほどかかります)→非常に目の細かいヤスリをかけて平らにする。

こまめに手入れしていると、最終的にあまり大きく接着剤の面が表面に残らないものですが、残ってしまった場合は、職人さんは何か黒色の粉をふりかけています。私は1-2年の定期的なチェックの合間に自分でやる程度なので、ヤスリまでで終了です。ヤスリをかける時に、平らな小さな木のブロックのようなものをヤスリと反対面に当てておいてかけるとまっすぐかかります。

怖いですか?私も実はそうです。でも意外と失敗はないですよ。

Here I write about the daily maintenance on the instrument. Changing the under-strings is a hard work, but I prefer doing this once in a year. I feel that the sound is refreshed and become easier to tune. Another thing I try doing once in a while is to maintain the finger board.

私の使用楽器と楽器の調整その3 About My Fiddle 3

まず、ナットの交換は、もともとついていた白いボーン素材のものから、黒檀のものに作り変えてもらうことになりました。ハーディングフェーレの場合、弦と弦の間隔はバイオリンよりも広めに作られていることが多く、(これは、多分ノルウェー人男性の手の大きさに合わせているからかと思います)私の場合は、これを限りなくバイオリンの弦間隔くらいのところまで縮めてもらいます。あまり縮めすぎると、かえって隣の弦に指が触れやすく、弾きにくくなります。

それから、弦高の調整です。最初、弦高を見てもらうと、やはり非常に高く設定されているとのことでした。「最終的には駒を削って調整するかな」と言いつつ、試しに、駒を5mmほど移動させてみて、高さを見てみようかということになりました。5mmというと、かなりの移動になるので、駒と同時に魂柱も移動することになります。

数時間の作業の後、第一段階の調整を終えた楽器を弾いて見ると、弦の高さはちょうどよくなっています。でも、見た目がなんか変。駒を前に移動したことで、糸どめに近づきすぎてアンバランスな見た目になってしまいました。そこで最終的に、2mmほど後ろに戻してもらうことに。作業の間中、一旦弦を全て緩めてリラックスさせた楽器は、まるで別のものになったかのようによく響きます。以前は高音が少し甲高い印象でしたが、この作業のおかげでその甲高さはなくなり、リラックスした低音のよく響く、「あの」Hellandの音に。

さらに、響きを調整するためには共鳴弦の太さを変えるのもコツだという話に。これは以前から作業の合間に何度か言われていたのですが、私はすっかり忘れてしまっていました。ハーディングフェーレのメロディ弦には10.5-11-11.5-12の4種類が主に流通しています。共鳴弦の方も、太さは0.22から0.30まで幅広くあります。人によって好みはありますが、弦の組み合わせも一定ではなく、細い弦と太い弦を組み合わせることも多いです。これには諸説あり、同じ太さを好む人もいます。私の場合は、比較的太めの共鳴弦を同じ太さで張っていたのですが、それだと小さな楽器にはテンションが高すぎるかもしれない、と指摘されました。

時間がきたので、ここで工房を後にし、後日、共鳴弦を変えて見ることにしました。指摘された通り、細めの共鳴弦を3種類の太さを組み合わせて張って見たところ、これまた見事に響きが変わりました。これまであまり弾いていなかったこの楽器、これからしばらくはよく弾くことになりそうです!

*ここに載せた調整は、絶対的なものではないかもしれませんが、どなたかの参考になるかもしれないという思いで、ここに記録として書いておくものです。

 

 

 

私の使用楽器 その1 About My Fiddles 1

ハーディングフェーレを始めてから、これまでに何度か楽器を購入しましたが、いつもその時一番のお気に入りというのがあります。今、メインで使っているのは、Salve Håkedalの2009年のもので、優しい音と、深みのある低音、綺麗なデコレーションがとても気に入っています。このサイトの楽器の写真は、私の今使っている楽器のものです。

Salveの楽器はそれよりも以前に使っていた楽器が故障してÅnon Egelandに相談した時に勧められたのですが、それから何年も結局購入する機会がありませんでした。2010年に新しい楽器が必要となり。その時初めて本人に連絡をとり、購入したものです。今まで使っていたものと比べても、たくさんの他の楽器と比べても完成度が高く、安定しているところも大きな魅力です。ハーディングフェーレは変則チューニングが多く、楽器によっては、チューニングを変えると耐えられなかったり、安定するのに時間がかかったりするのですが、この楽器は比較的早く順応してくれるので、どんな場面でも活躍してくれます。

それから6年。あまり誰にも話していませんでしたが、(ノルウェーの知人友人たちにも)昨年、こっそり新しい楽器を購入しました。新しいといっても、100年以上前に作られたものです。

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この楽器の作者は、Olaf G. Hellandといって、テレマルクの有名なハーディングフェーレ職人一族の中でももっとも有名とも言われる人です。ですが、ご覧のように、表板には古い、あまりよくない修理の跡が。。実はこういうのはハーディングフェーレのような民俗楽器には残念ながら比較的よく見られることだそうです。デコレーションは簡潔。Olaf G.の初期に当たる1906年に作られたとされていますが、もっとも作品が高評価されている中後期の作品に比べるとデコレーションは驚くほど簡単です。私としてはシンプルなデザインが気に入ったこと、シンプルな中にもどこそこともない上品な風格があること、深みのある音、などが「気になって」、思い切って購入を決意しました。

「気になって」というのは、実は試し弾きの段階でも、そして購入してからもしばらく、思うように音が出てこなかったからです。以前の持ち主は楽器を弾く人ではありませんでした。あまり弾かないのでこの際修理をして誰か弾く人に、ということで売りに出した模様。何年も弾かれていない楽器を、弾ける状態にするのはなかなか簡単ではありません。幸い、売りに出される前の職人さんがプレーヤーだったこともあり、その時にある程度は弾き込まれているものの、修理から実際に見せてもらうまでに1年ほどもあり、その間、ほどんど弾かれることなく自宅に置かれていたようでした。

購入を決意するまでに2回もそのお宅を訪ね、とても気になっているのになかなか鳴ってくれない楽器を前に、とても迷いましたが、以後、このような機会もないのかもと思い、思い切って購入したのです。

それなのに、楽器は一向に鳴ってくれません。Hellandを弾く腕がないからだと半ば諦め、もう一度売りに出そうかと何度も考えました。

実際に購入してから実に1年以上も同じような状態が続いたのですが、ここ最近、楽器の鳴りが少しよくなってきたので、調整に出して見ることにしたのです。(続く)

In about 7 years, I have been using the fiddle made by Salve Håkedal in 2009, and this is my favorite instrument so far. But recently I got a chance to purchase a new-old fiddle which was made by Olaf Gunnarson Helland in 1906. These 3 articles are about the adjustment for this fiddle recently done in september 2017.

 

私の使用楽器 その2 About My Fiddles 2

Salve Håkedalの楽器は定期的に状態のチェックをしてもらっています。何も問題がないと思っていても、表板がはがれかけていた、とか、指板がすり減ってしまったとか。そういう問題を気づかずに放って置かないためにも、定期チェックを受けるようにしています。(ちなみにハーディングフェーレのD弦は巻き弦を使用することが多いため、指板のすり減りは必ずおきます。できれば自分で1年に一度くらいは手入れをすることを勧められていますが、それについては後述します)

小柄な私は手も小さく、スタンダードカスタマイズの楽器だと、ナットの部分をほぼ必ず調整しなければいけません。2本の弦を同時に押さえる、いわゆるダブルストップ奏法の多いハーディングフェーレでは指が細い、手が小さいというのは不利であるとも言えますが、この部分を調整することによって、ほぼその問題は解決します。新しい楽器は、必ずまずこの調整をしてもらうのですが、今回のHellandの場合は1年以上最初のカスタマイズのまま使っていました。ある程度慣れる部分もあるのですが、やはり弾きにくいので、いつもの定期チェックに加えて、ここをまず調整してもらいたいとお願いしました。

このHelland-feleは、現代のスタンダードの大きさのハーディングフェーレと比べるとやや小振りに作られています。ハーディングフェーレの発展の歴史では一般的に1860年を境に楽器の近代化が計られ、大きな楽器が作られるようになったと言われていますが、詳しく調べて見ると、一概にもそうとは言えないようです。当時人気のあったプレーヤーの楽器を次々と製作していたErik Jonsson Helland (今回のOlaf G.の2世代前の製作家)は1860年代のはじめにコペンハーゲンでバイオリン制作を学び、その後からバイオリンに似た形のものを作り始めたそうですが、旧来型に比べて大きくなってしまった楽器は当時のプレーヤーからは受けが悪く、トレンドの揺り戻しが起こり、しばらくはバイオリンよりは少し小型のものが多く作られたそうです。(Bjørn Aksdal “Hardingfela”参照)

調整を考えた時に、この「小型に作られている」ということがどう影響してくるのか?私は製作のことはわかりませんが、駒の位置、それに関連してくる魂柱の位置というのは当然、影響を受けるのでは、と思います。古い弦楽器修復の際の注意点として、ストップとメンスールの確保、とは聞いたことがありますが、この楽器の場合、おそらく(飽くまでも想像です)オリジナルのものよりは少し大きな現代の駒を置くことによってこの長さを確保していたようです。その結果、楽器は張力、弦高が高く、ストロークも指の力もあまり強くない私には弾きにくいものになっていたようです。もちろん絶対的な正解はなく、個人差があるのでしょうが、残念ながら私のスタイルにはあっていませんでした。そこで、弦高を低くする調整もお願いしました。

小型の楽器ということで、ネックも通常のものよりも5mmほど短く作られています。つまり、左手の指を押さえる位置も現在のものよりも少し狭いわけです。この差に適応できるかどうかは個人差があるでしょうが、私の場合は、時間はかかったもののほぼ適応させていました。もともと手が小さいこともあり、大多数の人よりは影響が少なかったのかもしれません。

新しいナットと、弦高の調整。これが今回の調整の2大テーマです。(続く)

 

 

 

提出後…. About this summer

この5月に修士論文を提出し、6月に試験を受けるまで、毎日とても気の張った生活をしていました。修士のプロジェクトなんて、自分の好きなことを好きなようにできる夢のような時間だと皆思うとは思いますが(そして、それもまた真実ですが)、(多少大げさですが)血を吐くような気分を何度も味わいながら書いた部分もあります。せっかく本場に来て、「これはこういうことなんでしょうか、それとも違うんでしょうか」みたいな質問をしたくても、まともな答えも得られず、(もしくはキレられ)自分でなんとか答えを出さざるを得ない部分が大部分で、何度呪いの言葉を吐いたことでしょうか。(失礼!)最終的には、愚痴をこぼすことにも疲れ、自分の勘を頼りに、きになる部分を潰していった感じでした。試験の日まで、何度悪夢に苛まれて夜中に目を覚ましたか!
ところが、試験が終わり、夏休みに入って、古い曲を見直したり新しい曲を見たりする段階で、今まで気がつかなかった、あるいは興味を持たなかったことに気がついたり、面白いと思えたりすることが増えたように思い、ようやく、悩みに悩んだことが無駄ではなかったのだ(あるいは、それもまた幻想かもしれないけれど)と思えるようになりました。
今年はランズカップレイク(伝統音楽の大会)が例年よりも遅く開催されたため、自分の曲を本格的に見始めたのが修士の試験が終わってからでしたが、曲の構造、バリエーション、音楽的な内容など、準備も楽しかったのです。
7月後半からはまた少しテーマを変えて、新しい曲を10曲ほど同時進行で見ています。これについても、以前とは違った見方ができて来たのも、一つ一つの素材をより詳しく(誰かからの答えを待つだけでなく!)見られるように訓練してもらったからです。
ハーディングフェーレをはじめてまもない頃は、伝統曲の多くの曲が似ているように聴こえ、(実際、お互いにとても似ているのですが)その一曲の中から面白い部分を抽出するのも容易ではありませんでした。ですが、いくつかの同じ曲を見たり聞いたりして思うことと言えば、いかに古いプレーヤーは自由に弾いていたかということです。
あるプレーヤーにはあったその「部分」が別の人にはなかったり、弾く順序が違っていたり、でもみーんな同じ曲と見なされている。そして、「その曲をあなたならどう弾きますか?」となった段階で、いろんなアプローチの仕方がある。。何れにしても、解釈には想像力/創造力が必要になるということ。時には新しい部分を付け加えたりしても良いのです。
伝統と創造、伝統曲と新しい曲とは相反するもののように思われがちですが、まさに表裏一体。創造性は伝統の中に生き、創造無くしては、伝統はただのコピーです。今となっては何度も聞き古されたような台詞ですが、今まさに、実態を持って感じられる今日この頃です。
I had a lot of stressful days until I finished the master’s exam in June. Many people may think that masters period should have been fantastic, because I was working with the things that I loved. Well, yes. Yet, it was stressful to write a thesis! I had to think and decided mostly alone, and it was not known if the answers I chose were right or not.
These days I gradually come to think that the days I straggled a lot were not meaningless. After the exam, I started to study the new tunes, and I definitely find much more elements that I think are interesting than before.
Through masters project I listened the tunes which were on the archives. Interesting enough, I felt that the old players often played more freely than players today. (Or probably only “more freely than me”? ) Often I could find very different versions of the same tunes played by the different players.
Then, “How do you / I play this tune?”
There are lot of ways to interpret one tune. And it is even not wrong to add a new melody if it suits well to the original tune. (though many players seldom do this.)
Creativity and tradition are not two different things in Norwegian traditional music. Creativity is living in the tradition. I gradually come to understand what this means.
(The picture is the waterfall in Rjukan “Rjukanfossen”.)
Rjukanfossen